<ファイナルファンタジー12>

2006・12・28

 「ファイナルファンタジー12」は、その名の通り同名のPS2ゲームのコミック化作品で、ガンガンパワードが2006年中期にリニューアルした際に、最大の目玉タイトルとして連載が始まりました。作者は新人の天羽銀

 原作は、言わずとしれたスクウェア・エニックス最大のビッグタイトルの最新作であり、これまでもうひとつのビッグタイトルである「ドラクエ」のコミック化が、これまで何度もガンガンで行われたのに対して、こちらは今になって初のコミック化となりました。スクウェアとエニックスが合併したのは2003年4月1日で、以降ガンガン系雑誌で他の旧スクウェア作品がコミック化するだろうと予想されましたが、意外にもその数は多くなく、特にこの最大のビッグタイトルである「FF」のコミック化、それも正規タイトルのシリーズ作品のコミック化はなされないままでした(「FFクリスタルクロニクル」の連載はありましたが)。しかし、この2006年に、ガンガンの増刊誌である「パワード」の新装リニューアルに際して、大量のゲームコミックの新連載が、新装刊雑誌最大の目玉として企画され、その中でも、この「FF12」のコミック化が雑誌最大の看板となりました。

 しかし、上記のゲームコミック新連載の多くが、さほどの成功を収めていない中で、この「FF12」のコミックは、圧倒的な面白さにはまだ達していないものの、中々に堅実な作風で、なんとか成功作のひとつに踏みとどまった感があります。新人らしく不慣れな点もありますが、それでも丁寧に描かれた力作であることは間違いないでしょう。


・ガンガンパワードのリニューアルについて。
 元々、ガンガンの増刊誌であるパワードは、スクエニの新人の読みきりを載せるための雑誌で、しかも季刊での刊行で発行ペースも遅く、そのためか売り上げもさほど芳しくなく、かなりのマイナーな雑誌に留まっていました。しかし、2006年6月に行われたリニューアルで、新人の読みきり雑誌としての役割を変更、通常の連載作品が載る雑誌へと新装され、発行ペースも隔月刊となりました。そして、この時に大量の新連載が補充されたのですが、その中でも最大の目玉が「5本に及ぶ大量のゲームコミック新連載」でした。

 具体的には、この「ファイナルファンタジー12」を筆頭に、「ヴァルキリープロファイル2」「聖剣伝説」「シャイニングティアーズ」「キミキス」の5本です。正直、ゲームコミックばかりを5本も投入し、それを雑誌の看板扱いするという方針は、少々疑問の残るものでした。しかも、「ファイナルファンタジー12」「ヴァルキリープロファイル2」「聖剣伝説」の3本は、まだスクエニのビッグタイトルなので納得感も強いですが、残りの2つ「シャイニングティアーズ」「キミキス」は、そもそもスクエニのタイトルでもなく、なぜパワードで連載する必要があるのかすら疑問でした。
 そして、その危惧は半ば現実のものとなり、実際に成功したものは多くなく、むしろ明らかに失敗と言える作品が多数を占めていました。よく描けていると言えるのは、この「ファイナルファンタジー12」と、あとは「ヴァルキリープロファイル2」の2本だけでしょうか。まあ、このスクエニ最大のビッグタイトル2本のコミック化が成功した分、かろうじてましとは言えるかもしれません。

 実は、その「ファイナルファンタジー12」についても、その担当作家が、天羽銀という完全に無名の新人であったために、連載開始前はかなり不安でもありました。しかし、実際に始まった連載は、新人らしくまだまだ荒い点はかなり見られ、かつRPGのゲームコミックとしては少々異質な作風ではあるものの、それでもかなりの堅実な作品作りが感じられる良作でありました。これは雑誌にとっては大きな幸いだったと言えます。


・RPGコミックでは割と珍しいタイプの絵柄か。
 さて、この「FF12」のコミック化担当を任されたのは、完全な新人作家である天羽銀ですが、彼はこれまでに一切雑誌上で作品を残していませんでした。連載が始まるまでは完全に未知数の存在であり、どんな絵を描く作家なのかすら分からなかったのですが、いざ出てきた作品を見てみると、実はかなり意外なタイプの絵を描く作家だと判明します。スクエニ系雑誌ではあまり見られないタイプの作画だと言えました。

 スクエニ系作品では、作品のカラーを反映して、中性的でくせが少ない絵が主流なのですが、彼の絵は、それとはむしろ正反対の、少々くせの強いもので、それがかなり特徴的でした。見方によっては、少々「泥臭い」絵とも言えるもので、昨今の新人作家の絵柄とは異なる独特の趣きがあります。
 そして、これは、RPGのコミック化作品の絵としてもやや異質でした。このようなRPGコミックの場合、女性プレイヤーの読者も配慮して、中性的でかわいらしさを感じさせる絵で、萌え系の絵であることも多いのですが、それとはかなり異なります。

 むしろ、このマンガは、少なくとも決して萌え系の絵柄ではなく、むしろ濃い年配の男性キャラクター(いわゆるオヤジキャラ)の方がよく描けているなど、RPGコミックとしては意外なタイプの絵だと感じます。どちらかと言えば少年マンガ的な作風ですが、しかし昨今の少年ジャンプに代表されるようなライト感覚の絵柄とも少々異なっており、一部の絵柄の濃さについては青年誌的な要素すら感じ取れます。このあたり、中々に思い切った作画担当の起用ではないかと思われます。もっとも、原作であるFF12も、萌え系の要素は全くない、実写ばりのリアリティを重視したグラフィックのため、このような絵でも良いと判断したのかもしれません。
 また、キャラクターだけでなく、背景も建造物の描写などにかなり凝ったものが感じられ、全体的な作画の雰囲気も中々のものがあります。キャラクターの絵柄がゲームとは異なる点や、まだ新人らしく最初のうち少々読みづらさが見られる点は残念ですが、雰囲気・世界観はかなりよく出せているのではないでしょうか。


・原作ゲームとは異なる変則的な構成。
 そして、肝心のストーリーについてですが、これが原作とはかなり異なる切り口で進められており、これも少々意外でした。
 連載第1回は、原作ゲームではいきなり中盤にあたる重要なイベントである「レイスウォール王墓の探索」のシーンから始まっており、そこでのあるイベントから、キャラクターが過去の出来事に想いを馳せるという形で、回想してゲーム冒頭からのストーリーが始まります。つまり、「ストーリー途中の盛り上がるシーンからスタート → そこから回想シーンで遡ってストーリーを始める」という形式を採用しています。これは、映画やアニメでは割とよく見られる構成だと思いますが、ゲームの最初から忠実に再現することの多いRPGコミックで、このような変則的な構成を採用するとは思いませんでした。

 そして、遡って始まったストーリーも、やはり原作とは違う切り口で描かれています。一応は原作の冒頭からスタートする形ですが、ゲームではオープニングムービーや回想シーンで断片的に語られるのみだったイベントが、大きくページを取って1話すべてを使って語られています。特に、連載第2回目などは、原作ではほとんど見られなかった、2年前のある事件を詳しく語る内容で、ほとんどオリジナルといってもいいエピソードでした(原作でも一応そういう設定はあるのでしょうが)。

 そして、このゲーム冒頭部分のエピソードがかなり面白く、原作では断片的で判然としなかったストーリーが、細部まできっちり見せる形で詳細に語られているのは興味深いものでした。実は、ストーリー中盤のイベントを描いた連載第1回の出来は、作画的にも内容的にも少々荒い部分が多かったのですが、連載第2回以降、過去に遡ってからのストーリーはかなり引き締まったものがあり、こちらの方は堅実な面白さが感じられ、連載も軌道に乗ってきたように思われます。


・極めて政治的・軍事的要素の強いストーリー。
 そして、この序盤のストーリーは、極めて政治的、あるいは軍事的な話になっているのが最大の特徴です。原作のストーリーも、ある程度はその傾向が強いのですが、このマンガの場合、原作では断片的な描写でしかなかった、ストーリー冒頭での国家間での争いを詳細に描いているために、特にそれが強く感じられます。

 そして、原作でもこれら政治的なストーリーは最大の特徴であっただけあって、これがかなり面白い。正直、RPGのストーリーとしてはかなり異質で、冒頭第2話から数話に渡って、政治的な謀略劇と戦争の描写が続くのは意外でもありました。しかし、それが原作を分かりやすく補完する役目も担っていて、むしろゲームよりも導入部がすっきりと解明され、理解しやすくなったと言えるでしょう。原作では、そもそもあまりにも断片的な見せ方の上に、後への伏線のために色々な点が不自然に隠されていたので、極めて中途半端にしかストーリーが把握できない。このコミック版において、初めて本来のストーリーが繋がって語られたと言えそうです。
 また、このコミック版では、原作でもかなり重要なキャラクターでありながら、イベントシーンの端々で姿を見せる程度だった同盟国の王子・ラスラが、メインキャラクターとして頻繁に登場するのも見るべき点です。コミック版で、ようやくその詳しい人物像が分かる形となりました。総じて、原作の語り足りない部分をよく補完していると言えます。

 そしてもうひとつ、軍事的要素の一環として、戦争のシーンがよく描けている点は評価に値するところでしょう。多数の兵士がぶつかり合う集団戦の描写に加え、剣戟で鎬を削りあう個人同士の戦いの姿もよく描いています。いわゆるヒーローものに見られる超越的な能力バトルではない、現実的な戦いの様子が感じ取れるのがよい(一部にとんでもない力を持つキャラクターはいますが)。作者独特の雰囲気ある作画も顕著で、戦場の騒々しい乱戦ぶりがよく描けています。むしろ、この戦争シーンが、作者の作画が最も活きている場面であるような気がします。


・原作とは異なる構成で、かつ地味だが良質。
 以上のように、全体を通してRPGのコミック化作品としてはやや異質で、割と珍しいタイプの作画に加え、ストーリー面でも意外な切り口で始まったこの「FF12」のコミック化ですが、それはそれで一個の作品としては手堅くまとまっており、新人の作家ながらうまく良作に仕上げていると言えます。作者の丁寧な仕事ぶりも顕著に現れており、新人が全力を尽くして描いた力作になっていることは間違いないでしょう。

 ただ、序盤からこのような政治的な要素が全面に出たストーリーは、一方で分かりやすい娯楽要素に欠けて「地味」である点は否めず、冒険活劇としてのRPGコミックを期待していた人には、少々意外であったかもしれません。原作を知っているファンならばともかく、それ以外の読者まで引きつけることが出来たかどうかは、少々微妙なところでしょう。雑誌内でも、新連載の中ではうまく軌道に乗った作品として一定の地位を築いており、かつ「スクエニ最大のビッグタイトルのコミック化」ということで、編集部側の推進ぶりにも大きなものがありますが、これからさらに人気を得ることが出来るかは、まだ未知数というのが正直なところです。

 連載第4話にして冒頭のストーリーを終え、ようやくゲーム本編のストーリーに入り、これからはRPGらしい個人の冒険を主体とする話に移っていくのではないかと思われます。そのような展開でどれだけ盛り上げていけるかが、これからの連載の鍵となりそうです。新人の作品としては決して悪いものではなく、手堅くまとまって描けているだけに、今後さらなる質の向上、発展に期待したいところです。


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