<「鋼の錬金術師」はなぜ人気があるのかPart2>

2004・9・17

 かつて、このサイトで、「鋼の錬金術師」はなぜ人気があるのかという記事を書きました(現在は削除)。その記事で、わたしは、「近いうちに『鋼』はアニメ化するだろう」などという趣旨の発言をしたのですが、その予言は的中。記事を書いた半年後にはTVアニメ化し、さらにすさまじい人気を獲得しました。
 そこで今回は、アニメ化後の広く一般層へ浸透したすさまじい人気ぶりを考慮して、「なぜここまで幅広い人気を獲得できたのか」今一度真剣に考えてみたいと思います。


 まず、アニメ化後の『鋼』人気で顕著なのは、やはり女性読者の多さですね。もともと女性人気の高い作品でしたが、アニメ化して知名度が上がると共に一気に大ブレイク。このマンガの女性に対する人気ぶりはすさまじいの一言です。
 なぜここまで女性に人気を得たのか? その最大の理由は、女性にも受け入れやすい中性的な絵柄(特にキャラクター)が大きいと思われます。『鋼』の作者である荒川さんは、別に女性に対する受けを狙ったわけではなく、たまたまこういう絵柄の持ち主だったのだと思いますが、それにしてもこの絵柄を確立できたのは実に幸運だったと言えます。
 しかし、単に女性人気が高いだけではありません。一方で、男性に対する人気も安定して高く、力強い少年マンガを求める読者の間では特に評価が高い。つまり、男性を惹き付ける力強さをも合わせ持っているのです。つまり、男性と女性と、その両方を惹き付けるバランスのよさを持っている。この点が非常に大きい。

 これが、かつてのガンガンの『スサノオ』(増田晴彦)のように、骨太で力強さのみが強調された絵柄の場合、男性の人気は得られても、女性の人気が得られることはまずない。逆に、あまりにも女性寄りすぎて耽美的な絵柄では、今度は男性読者に毛嫌いされてしまう。『鋼』の素晴らしいのは、そのどちら寄りでもなく、中性的な側面と力強い側面を合わせ持ち、男性でも女性でも抵抗無く受け入れられる、汎用性の高い絵柄を確立できたことだと言えるでしょう。


 さて、『鋼』のアニメ化で増えたのは女性読者だけではありません。普段ガンガン系雑誌を読まない、高年齢層である大人の読者と、それとは正反対に低年齢層(小学生)の読者が増えたのも大きいのです。
 もともと、ガンガン系(エニックス系)雑誌はマイナーな存在であり、雑誌の主要な対象年齢である中高生あたりではそこそこ読まれているものの、それ以外の年齢層となると、読んでいる人は稀であり、『鋼』も一部のマニア以外では決して知られた存在ではありませんでした。しかし、ここでアニメ化の力により、すべての年齢層へ、一気に読者層が広かったのです。

 ここで重要なのは、『鋼』が小学生から大人まで、そのすべての人に面白さが認められていることです。そうでなければ、たとえアニメ化されたとしても、ここまで幅広い人気は出ません。
 まず、低年齢の読者にも楽しめるような、わかりやすいバトルアクションの要素がふんだんに盛り込まれています。少年向けのヒーローものとしても読めるわけですね。
 その一方で、高年齢の大人でも楽しめるような、深いテーマ性も兼ね備えています。いや、テーマ性だけでなく、ビジュアルや設定・世界観の方面でも、大人の鑑賞に耐えうる重厚さを保持しています。単純な少年向けのマンガならば、大人の読者にまでここまで高い評価を得られることはなかったでしょう。
 つまりは、低年齢層の小学生から、高年齢層の大人まで、それぞれが楽しめる要素が十分に盛り込まれている。そう、ここでも低年齢層と高年齢層を同時に惹き付けるバランスのよさが感じられるのです。この点も非常に大きい。

 これが、かつてのガンガンの『ドラクエモンスターズ+』(吉崎観音)のように、ビジュアル的に子供向けのイメージのみが露出しており、テーマ的にも少年マンガ路線を踏襲していた作品ならば、たとえアニメ化しても高年齢層の読者が付くことはなかったと思われます。逆に、かつての『ツインシグナル』のように、大人向けのSF的テーマや世界観のみを露出させた場合、今度は子供の支持を得られなくなります(『ツインシグナル』は、中盤以降シリアス路線に移って以来、低年齢層からの人気が得られなくなって相当苦労したようです)。そう、『鋼』の素晴らしいのは、対象年齢を狭く絞ることなく、幅広い層が楽しめる要素を同時に提供していることにあるのです。


 そして、もうひとつ重要なのは、このマンガが一般層からマニア(オタク)層まで幅広い人気を得ていることです。普段は有名なマンガしか読まないような一般層から、『鋼』よりもはるかにディープなマンガを読み漁るマニア・オタク層まで、その両方からの人気を得ています。
 このマンガは、とにかく設定の作り方が巧みなのです。一般層からマニアまで、誰でも楽しめるような絶妙な設定を構築しています。

 まず、一般の人でもとっつきやすい設定になっているのが大きい。このマンガの基本設定である『錬金術』。錬金術というものは、実在の歴史でかつて研究されていたという経緯があり、オカルトとはいえ現実的な要素も含んでおり、一般の読者でも素直に受け入れやすい。これが、よく分からない固有名詞を連発するようなディープなファンタジーだったなら、マニア向けのイメージが先行して一般受けはしなかったでしょう。
 マンガの世界観が、一昔前の近代、蒸気や機械が活躍している世界(いわゆる『スチームパンク』)を採用しているのも大きい。この手の設定は一般向けの映画や小説でも珍しくなく、ファンタジーと違ってより現実的な世界をモチーフとしていることもあって、やはり一般層でもとっつきやすい。このマンガは『ダークファンタジー』という触れ込みで始まりましたが、読んでみると決してマニア向けのディープな設定ではなく、むしろ現実的な要素が随所に感じられ、マニア向けのマンガを嫌う一般読者でも無理なく読めるのです。これは実に絶妙な設定です。

 では、マニアに対してはどうか。これがまた、マニアをも大きく惹きつける要素に満ちているのです。
 『錬金術』というものは、確かに現実的な側面も持ち合わせていますが、一方で深く調べれば調べるほど、そこはマニアを喜ばせるオカルト的な設定の固まりであり、マニアに対する訴求力は非常に高いのです。大体、『錬成』『賢者の石』『ホムンクルス』『エリクシル』はては『フラメルの十字架』なんて単語や記号が出てくるだけで、マニア・オタクとしては狂喜乱舞せずにはおられない(笑)。マニアを強引に引きずり込むストレートな求心力を持っています。
 スチームパンク的な世界観で、機械物がたくさん出てくるのも大きい。主人公であるエドワードのオートメイル(機械鎧)や、主人公の弟アルフォンスの鎧姿などは、そのフォルムは実に洗練されており、メカものが好きな男性マニア読者にとってはたまらないものだと思われます。
 ついでに言えば、主人公が軍属で、軍人であるキャラクターがたくさん出てくるのも評価が高い。この設定は、男性読者だけでなく、女性のキャラマニアな読者にも大いに受けています。とにかく、様々な点でマニア・オタクを惹き付けるには事欠きません。はっきりいって、これほどマニア・オタクが読んで楽しめるマンガだとは思いませんでした(笑)。下手なオタク向けマンガよりも、よほどオタク向けだとも言えるのです。

 このように、『鋼』は一般層からマニア・オタク層まで、幅広い層を満足させるに足る要素を兼ね備えており、この点でも極めてバランスがよいと言えるのです。

 これが、同じガンガンでも、例えば『ソウルイーター』ならば、あまりにもマニア向けのビジュアルやキャラクターが先行しすぎており、やや一般受けは難しいと思われます。今『ソウルイーター』は、連載開始直後からかなりの人気を獲得していますが、今後『鋼』ほどの一般性を獲得するのは少々難しそうです。逆に『王様の耳はオコノミミ』のようなストレート過ぎる少年マンガならば、マニアの支持を受けるのはまず無理。そう、『鋼』の素晴らしいのは、対象層を狭く絞ることなく、幅広い読者を惹き付ける絶妙な設定を作り出していることにあるのです。


 このように、『鋼の錬金術師』がここまでの人気を得た理由は、幅広い読者層の支持を得られるバランスのよさを持っているためだと思われます。老若男女、一般人からマニア・オタクまで、誰もが皆それぞれの楽しみ方が出来るだけの要素を完備している。この絶妙なまでのバランスのよさは、やはり作者である荒川氏の天分によるものなのでしょうか? それとも、作者と編集者による計算され尽くした作品計画によるものなのでしょうか? いずれにせよ、この『鋼の錬金術師』は、奇跡的なまでに絶妙なバランスの上に成り立った作品であると言えるでしょう。


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