<隠の王(なばりのおう)>
2005・2・27一部改訂・画像追加2006・10・29
今のエニックスで最も安定していると思われるGファンタジーで、最も優秀な連載のひとつです。作者は、これまでにいくつかの読み切りやシリーズ連載をGファンタジー上で掲載してきた、鎌谷悠希(旧名:釜谷悠希)さんです。これらの読みきり・シリーズ連載作品は、個人的にはどれもいまひとつの印象だったのですが、初連載作品となったこの「隠の王」では完全に一皮向けた印象で、今までとはレベルの違う作品になっています。
実際に最近のGファンタジー誌面でもかなりの人気があり、特に、女性向けとも言える絵柄からか、一部の女性読者にマニアックな人気があるようですが(笑)、内容的には誰でも楽しめる質の高い連載になっています。作品のジャンルとしては、「現代の忍者もの」でしょうか。主人公は世事に無関心な中学生・六条壬晴。彼は、かつての忍の血筋を引くもので、それだけでなく、体内に大いなる力(禁忌の術)を秘めています。これまでは世事に無関心な中学生としてやってきた主人公でしたが、その大いなる力を狙って忍の一族が襲ってきます。そして、自分のために仲間が傷つくことに迷いを抱えながらも、仲間達や味方となる(別の)忍の一族と共に闘っていくことになります。
・格段に向上した絵のレベル。
このマンガは、かつての同作者の作品に比べて、絵のレベルが目に見える形で上がっています。かつての読みきり・シリーズ連載時代には、描き込まれた絵に一定の魅力はありましたが、それ以上に画面が見づらく、読みづらい印象がありました。さらには、この当時の絵は、既存の作家(具体的には、ジャンプ系作家の鈴木央)の影響を受けていることが顕著に感じられ、オリジナリティの点でも今一歩でした。
しかし、この「隠の王」では、絵がシンプルに、すっきりしたものになっており、印象は大きく変わりました。ごちゃごちゃしていた余計な線がなくなり、実に読みやすくかつ洗練されたものに進化しています。そして、この時点で既存の作家の影響もほとんど見られなくなり、作者独自の絵柄が完成された感があります。
ただ単にシンプルになっただけでなく、キャラクターの造形のレベルも上がっています。背景の描き込みがシンプルになり、見やすい画面になったことも手伝って、キャラクターの存在感が増しています。
・バトルシーンにも独特な面白さが。
さらには、忍者ものとしてのバトルシーンの完成度も中々のもので、しかも今までの忍者バトルとは一味違うセンスも垣間見られます。忍者同士の闘いということで、剣戟でしのぎを削り、手裏剣が飛び交うあたりの戦闘シーンもよく描けているのですが、それ以上に「術」(忍術)の扱いが面白い。従来の忍者アクションとは一線を画する設定で、緊迫感ある術の応酬が楽しめます。忍者もののバトルアクションとしても、従来の作品とは異なるオリジナリティに溢れた力作であると言えるでしょう。
・バトルアクションとしての要素だけでなく、人間ドラマとしても秀逸な作品。
そして、肝心のストーリー面についての評価ですが、こちらも既に新人レベルの作品ではなく、今のGファンタジー全作品の中でも屈指の出来栄えとなっています。個人的には、この物語は、単なる忍者派閥同士のバトルアクションに留まらず、敵味方双方、一人一人のキャラクターの思惑に焦点を当て、個々の人物像をクローズアップしている点を評価したいところです。主人公の壬晴は、体内に「禁忌の術」を内包しており、ある者はその大いなる力を貪欲に求めて、ある者は壬晴をその力から解放して救おうと試みて、敵味方に分かれて闘いを繰り広げるわけですが、それぞれの個人個人が「禁忌の術」に対して様々な思惑を抱いており、敵同士、あるいは味方同士であっても必ずしも意見が一致するわけではありません。中には、禁忌を巡る重い過去の経験や生い立ちを抱えるものもおり、そのような深い描写がひとりひとりの人物ごとに丹念にほどこされているのです。つまり、このマンガは、決して「敵味方に分かれての忍者バトル」というだけの作品ではなく、むしろ個々のキャラクターをひとりひとり丁寧に描き、深い人物描写が成されている点が実に好感が持てます。分かりやすいバトルアクションとして面白さだけでなく、人間ドラマとしても十分に読み応えのある作品に仕上がっています。
さらには、主人公の壬晴もまた独特のキャラクター性を持っており、そこにも注目したいところです。彼は、「禁忌の術」を巡る争いの中心に置かれていながらも、世事には完全に無関心であり、むしろ自分のために周りの人物が迷惑を被り、傷つくことを嫌う少年です。ある意味では現代の若者に近いところもあると言えますが、そのような少年が、自分を巡る一連の闘いの中でどう変わっていくのか、そのあたりの「少年の成長」の経過を辿るのも面白そうです。
・最近のスクウェア・エニックスの中でも、特にレベルの高い優秀な作品だ。
このように、この「隠の王」は、絵的にも内容的にも優れており、最近の新人作家の中でも特に優秀な連載として、既存の長期連載と比べても引けをとらない完成度を持っています。作者の鎌谷さんは、これまでもGファンタジー上で長く読みきりやシリーズ連載を重ねてきたわけですが、ここに来てついにその努力が実を結んだと言えそうです。つまり、他の新人作家と比べても下積みの時代が長く、十分な修練を重ねてきたわけで、初めての本格連載でいきなりここまでレベルの高い作品が見られるのも納得できます。今のGファンタジーでも「隠の王」はかなり扱いが大きく、編集部としてもこの作品を大きく推していることが窺えます。Gファンタジーの看板作品のひとつとなっていると見てよいでしょう。アニメ化等は難しいタイプの作品だと思いますが、雑誌を支える連載としてはこれからも安定した活躍が期待できそうです。
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