<咲 -saki->

2006・12・23

 「咲 -saki-」は、ヤングガンガンで2006年中期より開始された連載で、同誌の中では比較的後発の作品に当たります。元々は3回で終了する短期連載として掲載されたのですが、それが読者の好評を得て、ほどなくしてそのまま読みきりから継続する形で本連載化されます。

 作者は、小林立(こばやしりつ)で、かつてブレイドで短期連載したこともある経歴の持ち主ですが、それも随分と前のことで、大半の読者には知られていない存在でしょう。その後、ヤングガンガンでいくつかの読み切りを残し、ついにこの「咲 -saki-」で再度連載を獲得することになります。このマンガ、おそらくは編集部からの企画だと思われる「麻雀漫画」なのですが、これが作者の趣味とも合っていたようで、積極的に楽しんで描いているようにも見受けられます。ブレイドでは短期連載に終始し、その後長く定着した連載がなかった作者ですが、このヤングガンガンでついに安住の地を得たような感じでしょうか。

 このマンガは、咲(さき)という高校麻雀部の女子高生を主人公とする麻雀漫画なのですが、既存の麻雀ものとは一線を画する斬新なアプローチで描かれており、その特異な内容で、連載開始してすぐに(一部読者の)注目を集めることになります。2006年9月ごろから、作者の都合でいきなり連載が長期休載に入り、かなり心配されたのですが、数カ月後にようやく復帰し、コミックスもめでたく発売され、これで雑誌に定着した感があります。


・作者の小林立とは。
 さて、前述のように、このマンガの作者は、小林立という方ですが、この人はマンガ家としてだけでなく、イラストレーター、エロゲーの原画師としての仕事もやっていたようです。いわゆる萌え系のキャラクター絵を描く人なのですが、一方でマンガ家としての絵もかなり安定しており、その実力は中々のものがあります。

 しかし、前述のブレイドでの連載であった「FATALIZER」(フェイタライザー)は、最初から短期連載の予定でわずか5回で終了、その後まったく次回作のマンガを見ることはなくなってしまいました。ところが、しばらくして、今度はスクエニのヤングガンガンで読み切りを掲載するようになり、最終的にはこの「咲 -saki-」の連載に落ち着くわけですが、このように「ブレイド→スクエニ」という流れで移籍した作家はかなり珍しいものがあります。元々、スクエニ(エニックス)からブレイド陣がお家騒動で分離したという過去の経歴から、「スクエニ→ブレイド」という流れの移籍は非常に多いのですが、その逆はほとんどありません。というか、これがほぼ唯一の例ではないでしょうか。ブレイドではたった5回の連載で終了し、成功しなかった作者ですが、このヤングガンガンでは見事に成功をおさめ、しかもそれが編集部主導の麻雀漫画の企画ものであるところを見るに、ここでもブレイドとガンガンとの編集部の力量の違いが感じられるような気がします。


・前代未聞の「萌え麻雀」。
 さて、このマンガは、高校の女子麻雀部を舞台にした作品であり、小林立によるかわいい女の子たちが主役で、言わば「萌え」を全面に押し出した「萌え麻雀」マンガとも言える内容となっており、従来の麻雀漫画に比べてあまりにも異質でした。このような企画を打ち立てるヤングガンガンの編集部には恐れ入ります(笑)。
 ただ、ヤングガンガンでは、「闘う女の子」をモチーフにしたマンガが多く、この「咲 -saki-」も、麻雀でライバルたちと激しくしのぎを削るという内容になっており、まさにヤンガン的な方向性を忠実に推し進めた連載とは言えます。類型の作品では、他に「すもももももも」「黒神」「BAMBOO BLADE」などがあり、特に「BAMBOO BLADE」とこの「咲 -saki-」は、かなり近い方向性にあるようにも思われます。

 とにかく、絵がやたら萌える。絵そのものは力強さも感じられ、迫力のある麻雀シーンもよく描けているのですが、一方でかわいい女の子も素晴らしくよく描けており、従来の麻雀漫画とは一線を画するかわいさに溢れています。しかも、ガンガン系にしては珍しくやたらエロい(最近は珍しくないか)。この作者の最大の特徴である「はいてない」絵(後述)も顕著であり、とにかく青年誌の麻雀漫画としてはありえない萌えに満ちています。このような作者に麻雀漫画を描かせるという素晴らしい企画に拍手を送りたいところです(笑)。

 中でも、主人公の咲以上に、部内のライバルキャラクターである和(のどか)の萌えレベルが著しく高く、はっきりいってこの和のかわいさ(エロさ)が最大の見所と言っても過言ではありません。


・麻雀漫画としても面白い。
 しかし、このマンガは決して萌えだけではありません。麻雀に対する設定や描写もかなりのもので、ストーリーや麻雀のビジュアルについてもハイレベルなものになっています。実はかなりの実力派の連載ではないかと見ます。

 既存の麻雀漫画との違いは萌えだけにはとどまりません。何といっても、ストーリーを重視している点が、最大の違いでしょう。従来の麻雀マンガならば、まず実践的な麻雀の描写、それも対戦相手同士の駆け引きの描写が中心となるものが主流でしょう。しかし、このマンガは、そのような麻雀の描写こそもちろんありますが、それ以上にストーリーを重視していることが顕著に感じられます。咲や和を中心とする女子麻雀部の人間模様、それも麻雀に賭ける意気込みに満ちた熱い人間ドラマこそが、実は最大のポイントでしょう。萌えだけでなく、一本筋の通った骨太なストーリーを見せてくれます。

 麻雀においても個性的で独特な設定が見られます。主人公の咲ですが、彼女は幼いころに家族麻雀で受けたトラウマから、「どんな勝負でも必ずプラスマイナスゼロを目指す」という特異な打ち方を実践しており、この斬新なプレイスタイルを全面に押し出した麻雀の描写にはかなり面白いものがあります。もっとも、実際にはこの打ち方はかなり非現実的なものもありますし、それ以外にもかなり非現実的とも言える極端な展開も多々ありますが、それでもギリギリの線である程度の説得力のあるものになっており、このような硬軟取り混ぜた面白い麻雀の描写には見ごたえがあります。

 また、前述のように、麻雀のシーンの迫力あるビジュアルにもかなりのものがあります。決して萌えだけでなく、全体的な作画レベルも上々で、中でも大ゴマを使った迫力ある麻雀の描写がかなり頻繁に見られ、このマンガを象徴するシーンとなっています。総じて、麻雀漫画としても遜色ない仕上がりになっていると言えるでしょう。


・小林立による個性的な作画。
 また、麻雀シーンの作画以外にも、作者・小林立独特の作画スタイルが諸所に存在しており、これがまたこのマンガの個性を際立たせています。

 まず、特徴的なのが、背景の作画、それも実在の風景を取り込んだ背景描写です。これは、作者の前作であった「FATALIZER」でも顕著だった要素で、東京のある町を舞台に、そこの風景を直接切り取った背景が非常に印象的でした。今回の作画でもそれはよく見られ、前作と異なり、どこか田舎の高校が舞台だけあって、緑あふれる自然の風景が盛んに取り入れられています。美少女キャラクターや麻雀シーンの描写にばかり目が行きがちですが、実は背景も含めて作画レベルは非常に高いと言えます。

 そして、小林立の作画最大の特徴と言えば、なんといってもはいてない。に尽きます。
 実は、これも前作「FATALIZER」でも見られた要素で、前作ではあまりにもそれを強調しまくったアクションのオンパレードで、「この作者は一体何を考えているのか」本気で悩んでしまいました。そして、それはもちろん後の作品にもすべてきっちりと受け継がれており、この「咲 -saki-」でも当然のごとく健在です。
 もっとも、麻雀漫画である「咲 -saki-」では、アクションシーンはほとんどなく、露骨にはいてないシーンもかつてよりは控えめではあるのですが、それでも要所要所ではきっちりとそれを踏襲しており、このマンガの異質さを際立たせる役目を果たしています。世に麻雀漫画は多数ありますが、こんな「はいてない麻雀漫画」が読めるのは、ヤングガンガンだけでしょう。個人的には、作者の小林立さんを、駒都えーじと並ぶ最高レベルのはいてない絵師として認定したいところです。


・これは、麻雀版の「BAMBOO BLADE」ではないのか。
 しかし、このような異質な要素こそ垣間見られますが、基本的にはかなりまじめな作風でもあり、「高校の女子麻雀部」という少々特殊な設定ではあるものの、それ以上に高校生の麻雀に賭ける熱意や麻雀を通しての成長を、面白いストーリーと迫力の作画で見せる作品になっています。「萌え麻雀」というスタイルゆえに、どうしても萌えばかりに気を取られてしまいがちではありますが、実はかなり深みのある良作だと言えるでしょう。

 そして、このマンガは、ヤングガンガンで先行する人気作品「BAMBOO BLADE」とかなり近いものがあります。「BAMBOO BLADE」は、高校の女子剣道部を舞台にしたマンガで、綺麗な作画で萌えが強く出た内容ではあるものの、それ以上に確かなストーリーと剣道の描写でスポーツものとして読める良作になっています。そして、この「咲 -saki-」 もそれに近い方向性を持っており、確かに萌えレベルは高く、それが最大の人気の要因とはなっているものの、それ以上にストーリーや麻雀の描写にも力が入っており、麻雀に取り組む高校生の少女たちの熱い人間ドラマが楽しめる快作になっているのです。

 そして、実際に今のヤングガンガンでもかなり評判は良く、このままの連載を続ければ「BAMBOO BLADE」と同等クラスの雑誌を支える良作になるだろうと期待できます。連載開始後しばらくして、作者の都合で長く休載していた時期があり、少々心配ではありましたが、再開以後は調子を取り戻しており、この分なら安心できそうです。初コミックスとなる一巻もこの業界では注目されており、一躍人気作品になる可能性もあるでしょう。ヤングガンガンでまたひとつ楽しみなマンガが出てきました。

ふたつ上の画像の続きですよ。


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