<ハーメルンのバイオリン弾き>

2002・7・22

 このマンガはいわずと知れたガンガンの10年にわたる最長連載作品であり、ガンガンの歴史のひとつの「顔」といっていいんですが、その反面大きく評価の分かれる作品でもあります。

 何しろ、10年の連載のうち前半と後半とであまりにも評価が違う。いや、評価というよりはむしろ作品の内容自体が違うといってよい。そう、このマンガは前半と後半ではまったく別の作品とみてよいでしょう。

 もともとの「ハーメルン」は、とにかく斬新なマンガでした。ほかに似たようなマンガを見つけることができないくらい、斬新で新感覚のマンガだったのです。あえてジャンル分けするなら「クラシック音楽の要素も入ったギャグファンタジー」といったところでしょうか。
 世界設定としては異世界ファンタジーですが、しかし勇者であるはずの主人公が外道で、まわりのキャラクターたちをまきこんで狂騒的なギャグをくりひろげる。かと思えば肝心なところではシリアスに人間ドラマを繰り広げる。と思いきや一転してギャグシーンで何もかもひっくり返す。さらにここに作者の趣味であるクラシック音楽の要素もふんだんに取り入れられ、音楽ファンとしても楽しめるという、なんともつかみ所のない作品でした。
 その中でもギャグの面白さが際立っていました。とにかく最高に笑える。下手なギャグマンガよりはるかに面白い。そしてそこまで徹底的なギャグを繰り返しながら、ストーリー本編もきちんと進んでいき、肝心なところでは骨太な人間ドラマを見せてくれる。ギャグとストーリーが絶妙なバランスで融合した、まさに新感覚のマンガでした。

 ところがですね、これがいつごろのことかわかりませんが、ある時期を境に作品の内容ががらりと変わってしまう。一言でいえば「普通の少年マンガになってしまった」。ファンタジー世界でただバトルを繰り返すだけの、オードドックスな少年マンガになってしまったんですね。
 それで、まあ内容が面白ければそれでもよかったんですが、その肝心の内容がぜんぜん面白くない。ストーリーに矛盾点が目立つようになり、それ以上に単調で先を読みたいとは思えなくなってしまった。それだけでなく、ギャグが中途半端に絡んでくるようになり、バランスも悪くなってしまった。さらにクラシック音楽の要素がほとんど消えうせたのも大きい。
 わたし自身はストーリーの整合性に関しては甘いほうで、多少矛盾点があってもそれ以上に面白さがあれば許してしまう人間ですが、しかしストーリー自体が単調で面白くないというのはもうどうしようもない。もはや先の展開を楽しむという読み方が出来なくなってしまった。
 まあ、作品において最も重要なのはテーマだと思いますし、作者の渡辺道明先生が描きたかった骨太なテーマは十分伝わってきたんですがね。ただ、それに面白さが伴っていなかった。いくら伝えたいテーマがあっても、エンターテインメントとしてのストーリーの面白さがここまで欠けてしまうと作品としては評価できない。

 実際、後期の「ハーメルン」に関しては、わたしだけでなく、ガンガン読者、あるいはエニックスファンからの評価もかなり落ちていたように思います。ほとんどコミックス派の読者で人気が持続していた感が強いのです。かつて、とあるエニックス系のサイトで連載マンガの人気投票が行われたことがありました。その中で、「ハーメルン」には一票も票が入らなかった。ほかの作品は数百票、多少マイナーなマンガでも数十票の得票を果たしているにもかかわらずだ。もちろん、ハーメルンと同じ古株のグルグルやパッパラ隊もかなりの票を獲得していました。それなのにハーメルンに一票も得票がないというのはあまりにも極端な結果です。読者人気が落ちていたことの象徴といえるでしょう。

 ここまで人気が翳りながらも、それでもコミックスが売れるというのは謎ですが、結局後期のハーメルンは一部の固定ファンのみに支えられていたといえます。まあ、ショーネンマンガ好きには面白かったのでしょう。

 そもそもですね、わたしが初期のころからガンガンを読み始めたのは、週刊ジャンプに代表される、ありきたりな少年マンガに満足できなかったからです。ハーメルンのような、斬新で新感覚のマンガが読めるから、ガンガンを買い始めた。それが、いつのまにかジャンプの連載マンガのようなありきたりなショーネンマンガになってしまった。個人的にも非常に失望したわけです。

 ただ、そんな中で救いといえば最終回がよかったことでしょうか。多少強引なところはありましたが、ハーメルンらしくギャグシーンも冴え渡り、久々にクラシック音楽の要素も復活し(ハーメルンがバイオリンを弾いた)、本当に久しぶりに「ハーメルン」を読めた気がしました。ショーネンマンガでない「ハーメルン」を読めた。これが後期ハーメルンの唯一の救いでしょう。


 で、まあごたごたといろいろ書かせてもらいましたが、結論としてはやはりこの作品は前と後で別作品だと思います。前期の「ハーメルン」はオリジナリティあふれる斬新で新感覚な傑作、一方で後期の「ハーメルン」は残念ながらただのショーネンマンガに陥ってしまったのではないか。そう思います。


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