<ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章>

2002・5・10

 名実ともに初期〜中期のガンガンの看板作品である。少年ガンガン自体がエニックスの雑誌であり「ドラクエ」の知名度が特に高いこと、編集部の積極的な看板作品としてのバックアップ、そして作品自体の完成度から、ガンガンのマンガの中でも最も知名度の高い、有名な作品となった。「当時のガンガンをロトの紋章のために買っていた」あるいは「ガンガン自体は買ったことはないが、ロトの紋章は知っている」という人は多いのではないだろうか。エニックス系でアニメ化などの企画なしにここまで知られている作品は他にない。

 作者はいまや一流の実力派作家である藤原カムイ氏。「ロトの紋章」連載初期には彼以外にも多くの人物が作品の設立に関わっていたが、それ以降はほぼ彼が単独で執筆していることから、実質カムイ氏の単独作品と見ても構わないであろう。

 藤原カムイ氏は80年代前半からマニア誌を中心に積極的に執筆を重ねており、当時からすでにマンガマニアの間では「大御所」と呼ばれ、実力派の作家として知られていた。しかし、あくまでマニア中心で「知る人ぞ知る」作家であり、かつ連載していた雑誌の休刊などで作品が未完に終わるケースも多く、不遇の作家というイメージであった。
 それが90年代に入って、この「ロトの紋章」ともうひとつの長期連載「雷火」によって、名実ともに大作家として開花することになる。

 作品の解説に入ろう。この「ロトの紋章」は「ドラゴンクエスト列伝」のサブタイトルからもわかる通り、エニックスのゲーム面での看板作品ドラクエの世界を舞台にした「ドラクエマンガ」である。ただし、ゲームのストーリーをなぞっていくタイプのゲームマンガではなく、ストーリー自体は完全オリジナルとなっている(「ゲームマンガ」という表現はちょっとあてはまらない)。
 内容的にはまさにヒロイックファンタジー。国を魔族に滅ぼされたロトの血をひく王子アルスが数々の試練をへて、諸悪の根源である「異魔神」を倒すまでの冒険の物語である。スケールの壮大さを感じさせる力強いストーリーであり、王道少年マンガといってもいい内容であろう(ヒロイックファンタジーと少年マンガは構造的には非常に似ている)。
 しかし、単純にこのマンガを「ドラクエマンガ」「王道ファンタジー」「王道少年マンガ」として捉えるのは少々短絡的である。確かにそういった点からこのマンガがメジャーな人気を獲得したことは否めないが、しかしそれを完全に描ききった藤原カムイの画力、そしてストーリーの構成力には見るべきものがある。「ドラクエ」「王道」である以上に、やはりこれはカムイ氏の作品であると思う。
 特にその圧倒的な画力、世界観の構成力、そして心理描写の巧みさからくる重厚な人間ドラマには見るべき点がある。ストーリーそのものは王道であり、単純な点は否めないが、しかしこの人間ドラマの描写には素直に感動できるだけの力がある。そしてそれを強烈にバックアップする壮大な画面構成と世界観。まさに「力技」と言っていい作品内容である。
 特に終盤の盛り上がりが素晴らしかった。当時のガンガンは月2回刊行時であったが、そのタイトなスケジュールの中で全く質を落とすことなく、むしろラストに向けてさらに盛り上がっていった。人間ドラマとしてもこの終盤のドラマが秀逸であったと思う。

 また、このロトの紋章終盤の執筆に際して、カムイ氏の新しいマンガ手法へのチャレンジが見られる点も面白い。例えば、CGの採用。カムイ氏は積極的にマンガにデジタル手法を採用した作家として知られているが、「ロトの紋章」終盤でその萌芽を見ることができる。あるいは、読者参加企画。連載末期に「勇者募集」と銘打って読者からオリジナルキャラクターを募集したことを覚えている人も多いだろう。寄せられる膨大なキャラクターを描ききったカムイ氏の熱意には感心させられた。

 思えば「ロトの紋章」(あるいは「雷火」)末期はこの藤原カムイのマンガに対する実験チャレンジが始まった時期であり、それが作品に影響を与えている点が面白い。そしてこの実験精神はこの二大連載を完結させてから一気に爆発し、「COLOR MAIL」「福神町綺譚」などの数々の実験作につながっていく。


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