<マジック・マスター>
2001・11・8このマンガはいいところと悪いところがはっきりしています。
まずいいところ。まずマンガの企画自体が非常に良かった。「業界初の本格マジックコミック」の宣伝文句に嘘偽りはありませんでした。プロマジシャンの徹底的な監修による作品中のマジック(奇術)のリアリティは完璧といっていいでしょう。実際、わたしは、このマンガを読むまでこのような高等な技術が必要なマジックの世界があるということは全く知りませんでしたし、対戦形式のマジックのトーナメントが日夜開かれていることも知りませんでしたし、マジックキャッスルという組織があるということも知りませんでした。所詮わたしのマジックに対する知識はテレビで見るショー的なものでしかなかったのです。
「マジックのタネが分かってもそれが読者にできるとは限らない」というのもいいですね。もともと優れたマジックはタネがわかってもなお楽しめるものが多いですが、このマンガのマジックはその典型といえるでしょう。この作品に登場するマジックはどれも高度な技術を必要とするものばかりで、タネや仕掛けがわかったところでシロウトがすぐにできるようなものではありません。このあたり、従来のマジックが登場する作品とは一線を画しています。いままでの作品は「一見して不可能に見えるが、実は誰でもできる簡単なトリックを使っていた」というオチで読者を無理矢理感心させるものでしかなかった。このマンガは、そのような一発芸的なタネ明かしには頼らず、純粋にマジックの技術を紹介することをテーマにしています。このあたりのマジックに対する真剣な取り組みが非常に好感が持てます。
加えてストーリーの練りこみもかなりいいです。大筋自体はオーソドックスな対戦物の少年マンガでありながら、随所に細かい工夫が感じられ、純粋にページをめくっていて楽しいものになっています。
特に、マジックの対戦の内容に徹底したリアリティがあるのがいい。わたしはなんだかよくわからない必殺技とか秘密兵器とかで強引に敵を倒すようなマンガは嫌いだし、まして努力とか根性とか友情とかの理由でパワーアップして勝利するなどふざけんなという感じです。そんなふざけた少年マンガは認めません(笑)。
その点、このマンガはとにかく登場するマジックにひとつひとつ監修者による徹底的な考証が加えられ、勝負の内容に完璧なリアリティがあります。ストーリー自体は対戦の連続でも、その対戦の中身が非常に濃い。強引に必殺技や友情パワーで勝利するマンガではないのです。このあたりの作りこみが素晴らしい。
次に悪い点。これはまず絵に尽きます。まだまだ絵の技術に稚拙な点が多く、ビジュアル的には一歩も二歩も見劣りする作品と言わざるをえない。人物はともかく、背景の処理には明らかに劣る点が多く、まだまだ改善の余地があるといえるでしょう。
さらに肝心のマジックの描写にあいまいな点が多く、タネがわかりにくいというのが割と致命的だったりします。マジックのマンガなのに、肝心のマジック自体がわかりにくいとは何事だ。このあたりはさらなる努力が必要でしょう。
また、そういった細かい部分以上に、全体的に印象が薄い絵柄のイメージが強く、読者に訴えかけるものが少ない。わたしはガンガン本誌を買っていてこのマンガを知りえたから良かったものの、本屋でいきなりこの本を見かけたとしたらあまりの印象の薄さに素通りしてしまうかも知れません。あとは、あまりに少年マンガ的な展開である点。ひとつひとつの対戦には圧倒的なリアリティがあるのですが、大筋の流れは対戦の連続で、いまひとつステロイドな少年マンガの域を出ない。このあたりはもうひと工夫必要かも知れません。
と、いうわけでこのマンガは、マジックの世界を真剣に紹介しようという企画がまず非常によく、さらに描かれるマジックのリアリティも完璧と、「本格的マジックマンガ」の名に恥じない作りになっています。実際このマンガが世間に与えた影響は大きいようで、最近になってテレビでマジック関連の番組を多く見かけるようになりました。この「マジック・マスター」自体がテレビで紹介されたのも記憶に新しいところ。そして「マジック・マスター」関連のグッズも発売され、マジックプレイヤーの増加に一役買うなど、マジック界への貢献は侮れないものがあります。
一方で絵を中心にあからさまな欠点が多く、いまひとつ抜き出せないというのもまた事実。このあたりを改善すれば飛躍的に評価があがる可能性も高いんですが。(追記)
これは余談ですが、このマンガの雑誌連載時にプロマジシャン秋元さんによる「マジシャンズトーク」というおまけのページがあり、これが非常に面白い。マジックの技術をわかりやすく紹介しており、ある意味マンガ本編よりも面白いかも(笑)。単行本にもきちんと収録されているのでおまけと侮らずに読んでみましょう。
2005・1・22<連載終了に際して>
あまりにも中途半端に連載が終了してしまい、非常にショックである。既に作品はクライマックスまで来ており、もうじき終了するのは分かっていたが、しかしこの終わり方はまるでいただけない。最後の最後で肝心のクライマックスのマジックを省略する形で打ち切っていいのか。あと数回連載して、今のマジックをしっかりと見せた上で終わるべきだったはずだ。あまり人気の出ない連載ではあったが、せめて最後はきっちりとした形で終わらせてほしかった。
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