<ファイナルファンタジー12>
2007・1・17
言わずと知れたスクウェア・エニックス最大のRPGタイトル「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズの第12作です。
この「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズ、とにかくくせの強い特徴的な要素を備えていることが多く、非常に尖った印象の作品がよく見られます。他のどのRPGでも見られない斬新なシステムだった「FF2」、完全に一本道で見せるストーリーに特化した「FF4」(のちにこのスタイルが日本のRPGの基本スタイルとなる)、複雑難解なシステムと過剰なムービーで人を選びまくるゲームだった「FF8」などはその代表でしょう。これ以外の作品でも、毎回毎回ひどく特徴的なスタイルを採り入れることが非常に多いシリーズです。しかし、この「FF12」に関しては、そんな従来のシリーズ作品のような尖った部分は少なく、極めてオーソドックスかつスタンダードなゲーム(RPG)になっているように思えます。それでいて、ゲームの各要素はどれも十分に作りこまれ、全体として卒なくまとまっており、かつ量的にも非常な作りこみがなされているなど、非常に完成度の高いゲームになっているようです。この「FF12」、従来のシリーズとはメインスタッフが大きく異なるのですが、それがゲームのスタイルに直接的に影響を与えている格好です。
・しかし、従来のシリーズとは大きく異なる。
しかし、「オーソドックス」「スタンダード」とは言ってきましたが、実は、これまでのFFシリーズとは大きく異なるゲームでもあるのです。つまり、最近のRPGの中ではスタンダードということで、FFシリーズの中では、むしろこれまでとはかなり違うゲームになっているかもしれません。そのため、これまでのFFシリーズを念頭に置いてしまうと、少々意外なものに思えるでしょう。
具体的には、次の3点において、これまでのシリーズとはかなり異なる点が見られます。
この3点は、どれも従来のFFシリーズとは一線を画する要素であり、しかし昨今のRPGではスタンダードと言える要素でもあるのです。その意味では、この「FF12」、FFシリーズの一作品というよりは、むしろ一個のスタンダードなRPGに近いゲームになっていると言えます。
- シームレス・リアルタイムとなった戦闘システム。
- ごく一般向けにまとめられたストーリー・世界観・演出。
- メインストーリーよりもサブイベントやサブシナリオ、ゲーム的なやり込みが重視されたゲームスタイル。
以下、この3点について、ひとつひとつ詳しく見ていきます。
1.シームレス・リアルタイムとなった戦闘システム。
このゲームの戦闘システムは、「アクティブディメンションバトル (ADB)」と銘打たれていますが、これは現在主に海外のRPG、特にオンライン系のRPGで顕著な「シームレスバトル」そのものに他なりません。この戦闘システムの特徴は、などが挙げられます。ただ、この「FF12」の場合、シームレス戦闘の中では、比較的シンプルなシステムを採用していることもあって、5.のフィールド上の地形や位置取りを使った戦略性は薄く、あるいは6.の敵との遭遇や逃亡での戦略性も思ったほどにはないように思われます。むしろ、基本的には従来のFFの戦闘に近いものがあり、それにシームレス戦闘独特の「画面切り替えなしの快適さ」「常にリアルタイムで時間が進み続ける臨場感や緊張感」を全面に付け加えたと考えてもよいでしょう。
の2点に集約されます。そして、この戦闘システムの利点は、
- 敵とエンカウント(遭遇)した際、戦闘画面には移行せず、フィールド上で直接戦闘を行う。
- 戦闘の処理が完全にリアルタイムで行われる。
- 従来のエンカウント式戦闘の画面切り替えの待ち時間がなく、ストレスなく快適にプレイできる。
- フィールド上で直接戦うことで、臨場感や緊張感が味わえる。
- リアルタイムで時間が進む戦略性と、ここでも臨場感や緊張感が味わえる。
- フィールド上の敵の配置や行動に戦況が左右される。
- フィールド上の地形や位置取りを利用した戦略性がある。
- 従来のエンカウント式戦闘と異なり、敵との遭遇や逃亡の段階でも戦略性がある。
そして、実際にプレイしてみると、これが思った以上に快適で心地よく、戦闘が多くの時間を占めるゲームプレイの上で、劇的な効果をもたらしました。
また、このシステムをより有用なものにしているのが、「ガンビット」と呼ばれる一連のオート戦闘システムです。いや、このシステムがなかったら、おそらくこの戦闘は機能していません。
従来のゲームでのシームレス戦闘は、元々複数プレイのオンラインゲームでの使用を前提に開発されたこともあって、一人プレイのゲームではうまく機能していないケースが目立ちました。リアルタイム戦闘では、個々のキャラクターにいちいちコマンドを入力することは非現実的であり、一人の操作キャラクター以外はAIで行動するシステムが一般的です。が、このAIがまともに機能せずに、まったく戦略が成り立たないゲームも珍しくありませんでした。しかし、このゲームの「ガンビット」は、一人一人のキャラクターにあらかじめ行動パターンを設定するシステムで、これにより一人プレイでのリアルタイム戦闘が完全に機能できるまでになりました。形としては、ドラクエあたりのゲームに見られる「さくせん」をより高度化したものですが、このドラクエのような「ガンガンいこうぜ」「いのちをだいじに」程度の漠然とした作戦では、適切な行動は期待できませんでした。かといって、あまりに複雑で細にわたる設定システムでは、マニアックすぎてコアなプレイヤー以外はついてこれません。この「ガンビット」は、そのあたり簡単すぎず難しすぎず、誰もが適度な設定が出来る優れたバランスに仕上がっています。
実際のところ、この「ガンビット」は、FF12の戦闘の中核をなしています。最終的には、この「ガンビット」を適切に設定し、戦闘をスムーズに進めることが究極の目的にもなります。自分の設定した行動プログラムが、ことごとくうまく機能するさまを眺めるのは楽しいものです。
2.ごく一般向けにまとめられたストーリー・世界観・演出。
今回のFFで印象的だったのが、ストーリーや各種の設定、あるいはグラフィックやサウンド等の演出面において、極めて一般向けの仕様というか、誰もがごく馴染みやすい設定になっていたことです。今までのFF(あるいはFF系の和製RPG)によく見られた、オタク向けの「ケレン味」が非常に薄くなっているように思いました。オタクに受けそうなマニアックな設定にはなっておらず、キャラクターの萌え要素も感じられなかったように思います。むしろ、ファンタジーな世界観でありながらも、一般のプレイヤーでも受け入れやすいゲームになっており、ストーリーや各種設定において、特に強くそれが感じられます。
ストーリーは、珍しく極めて政治・軍事的な要素が強いものでしたが、全体を通して卒なくまとめられており、あまりに不可解な展開や、強引に感動させるようなイベントシーンが、今回はほとんど見られませんでした。良い意味で一般向けの映画的なストーリーだったと感じます。同じことは、ゲーム全体の各種設定にも言えます。キャラクターやモンスター、種族、街や国家等の地理的な設定等、すべてにおいて奇をてらったような特異な設定が見られず、ごく丁寧に作りこまれているようです。ハントカタログ(モンスター図鑑)に見られる追加情報などは、設定の作りこみが直接的に感じられ、感心しました。
また、今回は、街や村を歩く人々の会話がかなり面白い。ひとりひとりのセリフがよく考えられ、含蓄のある話をしてくれる人も多い。メインストーリーのイベントシーンだけでなく、このような個々の会話にも、製作者の主張するテーマがよく出ているように思います。個人的には、なんとなく今の日本の世相に対する皮肉というか、風刺のようなものが含まれているようにも思え、これが好印象でした(基本的にはエンターテインメントなので、テーマをことさらに主張するのではなく、なんとなく端々に織り交ぜているような感じです)。
3.メインストーリーよりもサブイベントやサブシナリオ、ゲーム的なやり込みが重視されたゲームデザイン。
しかし、上記のような戦闘システムやストーリー・世界観といった個々の要素以上に、今回のFFは、全体的なゲームデザインそのものが明らかに異なります。いや、むしろ、こちらの違いの方が、より重要であると言えるでしょう。
実は、このFF12のメインストーリーは、ゲームの中でさしたる割合を占めていません。せいぜいゲーム全体の2割か3割といったところで、それ以外の7割か8割は、メインストーリーとは直接関係のないサブイベントやサブシナリオ、ダンジョンやボスで占められています。そのため、ただ単にクリアを目指すだけならば、分量的には大したことはなく、ストーリー自体も従来のFFに比べればやや薄味で、特に中盤以降はイベントシーンの数自体も少なめになります。 それよりも、むしろメインストーリー以外の方がはるかに比重が高く、ゲームクリアとは直接関係のないサブイベントやサブシナリオ、サブクエストのようなものが大量に存在しています。その最たるものが、「モブ討伐」と呼ばれる、依頼形式のボスモンスター退治イベントで、こちらの方がメインストーリーよりもはるかにやりごたえがあります。それ以外にも、召喚獣という強敵ボスモンスター、それ以外にも点在する非常に強いボスたち、強敵ばかりが棲息するダンジョンや地域フィールド、あちこちの街や村に点在するミニクエストやお遊び的なイベントなど、さまざまなゲーム的要素が大量に存在します。通常のモンスターを倒して、ハントカタログ(モンスター図鑑)にレアなモンスターの記述や追加情報を書き入れるというやりこみ要素もあります。
そして、これらの各要素に積極的に取り組まないことには、このゲームを本当の意味で楽しむことは出来ません。単にメインストーリーを追いかけてクリアを目指すだけでは、ゲーム全体の三分の一も味わうことは出来ないのです。
・実は、海外のRPG(ゲーム)では、このスタイルの方が一般的。
そして、このようなスタイルのゲームは、これまでの日本のRPGでは珍しく、あまり見ることはできませんでした。日本のRPGの場合、まずストーリーを楽しむという行為が非常に重要で、それに対する比重ももちろん高く、ゲームの多くをメインとなるストーリーが占めています。メインストーリーに沿ってゲームが進むという、一本道のRPGも非常に多いようです。しかし、このあたりのスタイルが、海外のRPGでは全く異なっており、むしろ海外では、この「FF12」的なRPGの方が一般的なのです。メインストーリーはもちろんあるが、その比重は小さく、むしろ自由にサブイベントやクエストを楽しむことに比重が置かれている。このあたりが非常に対照的です。具体的に、このふたつのタイプのRPGを比較してみましょう。
日本のRPG 海外のRPG メインストーリーの割合 7〜9割以上 2〜3割程度 ゲームの進行形式(自由度) ストーリーに沿って先に進めるようになる 序盤からフィールドの大部分に自由に移動可能 サブシナリオやサブクエストの量 少ない(ゲームの一部) 多い(ゲームの大部分を占める) クリアと関係ないダンジョン 少ない 多い 最後の敵(ラスボス)よりも強い敵 いないことが多い
(例外:クリア後のダンジョン)普通に存在する クリア後のダンジョンなど 大抵ある ないことが多い ゲームの量的な作りこみ 中程度(数十時間のプレイが一般的) 非常に大きい(百時間以上〜数百時間はかかる)
海外のRPGにおいて、クリア後のダンジョン等がないことが多いのは、それまでにクリアとは関係ないサブクエストやダンジョンが多数あり、ラスボスよりも強い敵も普通に存在するため、わざわざクリア後に限定した追加要素を作るまでもないということでしょう。FF12でも、ラスボスよりも強い敵などはごく当たり前に存在しますが、それらはすべてクリア前に倒すことが可能です。 また、RPGだけでなく、他のジャンルにおいても、このようなスタイルを採るゲームは海外には多い。有名どころのゲームを挙げれば、「グランド・セフト・オート」シリーズなどはまさにこれに該当します。このゲームも、メインストーリーを追っていくだけでクリアは出来ますが、それだけならば分量も少なく、すぐに終わってしまいます。むしろ、広い街のどこでも自由に行きたいところへ行き、自由にさまざまな行為を楽しむことこそが、ゲームの基本スタイルとなります。FF12も、実はこれとまったく同じスタイルのゲームであって、メインストーリーにこだわらず、広大なフィールドを自由に移動し、各地で様々なプレイを楽しむことが、ゲームの中心となるのです。
このように、FF12は、基本的には「海外的」なRPGのスタイルを採用しており、これは他の日本のRPGや、あるいは従来のFFシリーズとも根本から異なっています。FFシリーズは、毎回毎回前作とはまったく異なるゲームデザインを取ることの多いシリーズですが、今回のFF12は、これまで以上に劇的にゲームデザインが変わっていると言えます。
そして、これこそがFF12の最大の長所であると言ってよいでしょう。従来の日本型のRPGも決して悪いものではないのですが(これはこれで海外でもきちんと評価されています)、やはりゲームとして自由度の高いこのゲームスタイルは、それ以上に非常に魅力的であり、それがFFというビッグタイトルの最新作で登場したことは大きい。最近では、オンラインのMMORPGの形で、ようやくこのスタイルのゲームが日本にも浸透してきましたが、それが、ついに一人プレイのオフラインRPGでも楽しめるようになったのです。
・ゲーム序盤の退屈さは残念だが、それ以上に完成度は高い。
ただ、欠点もあり、ゲーム序盤のうちはさほど面白いと言えず、しばらくプレイし続けないと面白さが見えてこない点はかなり不満であり、残念な点でもあります。
序盤のうちは、まず戦闘が退屈です。主人公ひとりの戦闘で、採りえる選択が限られているためにさほど面白いとは言えず、しかも、仲間が増えるまでにかなり時間がかかります。ゲーム中盤でようやく6人の仲間が揃いますが、正直それまでが長すぎるように思います。もっと早く仲間を揃え、気軽なレベル上げ等を可能にし、戦闘に集中できる体制を作った方が良かったのではないかと思います。
そして、肝心の自由度も序盤のうちはさほど高くありません。行ける範囲がさほど多くはなく、一定期間行動が制限されるイベントも多く、序盤だけならば一本道のRPGに近いとすら言えます。これが、中盤になって一気に自由度が広がり、それまでの状況が劇的に改善されていくのですが(この時こそが、このゲームにハマれる瞬間である)、そこに到達するまでが長すぎるのです。シナリオ上の都合もあるのでしょうが、このあたりもっとどうにかならなかったものか。 また、これはわたしだけかも知れませんが、ゲーム最初の街があまりにも広く、全体を把握するのに一苦労するのも難点でした。ゲームのカメラ視点も独特で慣れるまでに時間がかかることもあり(慣れれば快適になりますが)、かつグラフィックが豪華すぎて慣れるまで歩きづらく、うまく街を巡回するだけでも一苦労でした。そのため、最初は「店」の存在にすら気づかず、回復魔法を買い損ねてしばらくの間それなしでプレイしていたという、ありえないミスまで犯してしまいました。ファミコン時代の、シンプルなグラフィックで街も狭かった時代のRPGでは、到底考えられないような現象です。
このように、決して序盤の印象は良くなかったゲームなのですが、ある程度我慢してゲームを進めていくうちに、実はこれらの退屈さが劇的に改善される瞬間が確かに存在し、一気にハマっていったのです。そして、実は非常に面白いゲームであることに気づくのに、そう時間はかかりませんでした。一気に面白くなるシームレス戦闘とガンビットの設定、ケレン味なく素直に楽しめるストーリーや各種の設定・世界観、そしてなんといっても圧倒的な自由度の高さと量的な作りこみ。RPGのスタンダードとして非常に優秀であり、ハマればどこまでも楽しめるゲームであることは確かでしょう。
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